筑波大学と(国)農業生物資源研究所は12月11日、昆虫が脱皮するのに必要なホルモンの合成遺伝子の働きを調節するタンパク質「ウィジャボード(こっくりさん)」を発見したと発表した。動物の発育などに欠かせないステロイドホルモンを合成する遺伝子の調節因子で、無脊椎動物で見つけたのは初めて。ステロイドホルモン合成の仕組みや進化の謎を探る手がかりになるほか、昆虫にだけ効く農薬の開発にも役立つという。
■昆虫だけに効く農薬開発に力
筑波大の丹羽隆介教授、深水昭吉教授らと農生研の篠田徹郎ユニット長らの研究グループが発見した。ステロイドホルモンはあらゆる動物の発育や性成熟、恒常性維持などに必要で、生体内でコレステロールから何段階もの反応を経て合成される。この反応に必要な一連の遺伝子を制御する調節因子については脊椎動物ではかなり研究が進んでいたが、昆虫などの無脊椎動物ではほとんど未解明だった。
研究グループは昆虫のステロイドホルモンの一つ「脱皮ホルモン」に注目、ハエの内分泌器官「前胸腺」で作られる物質を分析した。その結果、脱皮ホルモン合成に関連して特定のタンパク質がたくさん作られていることを見出した。
そこで新タンパク質を作れないハエを遺伝学的な手法で生み出したところうまく発育しなかった。その一方で、このハエに脱皮ホルモンを餌として与えると発育できるようになることが分かった。さらに、①新タンパク質は脱皮ホルモン合成に欠かせない酵素を作る「スプーキア」と呼ばれる遺伝子の働きを調節している②新タンパク質を体内で合成できないように変異させたハエでも、他の方法でスプーキア遺伝子を強制的に働かせると発育能力は復活する、ことなども分かった。
これらの結果から研究グループは、新タンパク質について「ハエのゲノム(全遺伝情報)中に存在する1万4000種類もの遺伝子のうちたった1つのスプーキア遺伝子だけを調節していることを示唆している」として、他の昆虫でも同様なメカニズムが見つかれば特定の昆虫だけを駆除する農薬の開発にもつながると期待している。
新たんぱく質「ウィジャボード」は西洋版「こっくりさん」とされる降霊術で使う道具にちなんで名付けた。英語で「幽霊のような」を意味するスプーキア(遺伝子)を呼び出して働かせるところから命名したという。