(国)産業技術総合研究所ナノエレクトロニクス研究部門は12月7日、半導体ICチップの偽造防止に向けてICの“指紋”にあたる素子と、それ組み込んだ電子回路を開発したと発表した。ICチップ製造時に発生する、バラツキを積極的に利用する“逆転の発想”で、低コストで安定性のある“指紋”を可能にした。
■チップの偽造やなりすまし防止に効果
大型計算機から自動車エレクトロニクス、家電製品、携帯電話にいたるまで、ICチップはあらゆる分野で、機器の制御などの心臓部に使われている。それだけに甚大な故障や機器・システムの乗っ取り事件、不正使用などが起きると、社会生活の安全を脅かす心配がある。今回の成果は、電子デバイス関連で最も権威ある国際会議の一つ「国際電子デバイス会議(IEDM)」で発表された。
最近のICチップは、1個の中に1億から10億個近いトランジスターが埋め込まれるなど超微細化、高性能化が進んでいる。これまではICチップ製造時に、自然に発生するバラツキをいかに少なくし、高性能化するかに努力してきた。ところがこのバラツキは、人間の指紋と同じように同じものが発生しないためICチップの「固有番号」として利用しようとの動きが出ている。
高性能化と固有番号化はお互いに矛盾するため、1つのシリコン基盤上に作るのは難しい。そこで同グループは、性質の違う単結晶と多結晶をうまく組み合わせて製造するアイデアで解決した。
単結晶は結晶が規則正しく並んだ純度の高いシリコンで、高性能化に使う。一方、製造工程で生まれる不揃いの粒を再利用した多結晶は、方向がバラバラのためICチップの固有番号として使う。さらに多結晶シリコンで構成した立体構造トランジスタ(フィン型FET)による計算専用のSRAM回路を組み込むことによって、固有番号をより安定で信頼のおけるものにした。
多結晶シリコン素子によるICの指紋化技術は2001年に提唱されているが、薄膜トランジスターを使うため製造などが複雑だった。今回は作成方法も簡単なことから、低コストで、コンパクトに作れるという。