東京大学、高エネルギー加速器研究機構などの研究グループは12月8日、次世代デバイス開発の扉を開く新たな電子状態を発見したと発表した。シリコン半導体を用いた電子回路の微細化による高性能化が限界に近付く中で、電子の運動方向と磁石としての性質(スピン)の間に働く強い相関関係を利用してこの限界を打ち破ろうという強相関スピントロニクス実現への手がかりになると期待している。
■イリジウム酸化物を実験材料に見出す
東大物性研、高エネ研、豊田工業大学、大阪大学の研究者8人による研究グループが発見した。
20世紀に急速に発展した電子技術は回路の微細化によって急速に高性能化を進めてきたが、それも限界に近付きつつある。このため従来のように電子の電荷としての性質とその運動だけでなく、スピンも活用しようというスピントロニクスが注目されている。
ただ、スピンと電子の運動は本来無関係でデバイスへの利用は困難だったが、最近、電子の運動方向に応じてスピンの向きが決まる新材料も見つかりデバイスへの応用が期待されている。トポロジカル絶縁体やワイル半金属と呼ばれる新材料だ。一方、高温超電導や巨大磁気抵抗効果で知られる電子同士の強い相互作用(強相関)を利用する新しいデバイスの実現も注目されている。
今回、研究グループはこのスピントロニクスと強相関の二つの特徴を兼ね備えるイリジウム酸化物を実験材料に、新たな電子状態が存在することを見出した。新たな電子状態の存在は理論的には予想されていたが、実験的に確認したのは初めて。この電子状態を利用すると、磁場など外部からの信号を用いた強相関を用いてスピンに関わる性質の制御も可能となるという。
このため研究グループは「本来は反発し合う荒くれ者である強相関電子を手なづける指針が整った」として、従来のエレクトロニクスの限界を超える強相関スピントロニクスの実現に道が開けると期待している。