(国)物質・材料研究機構は6月8日、同機構の国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)が、光を好みの方向に導いたり閉じ込めたりできるフォトニック結晶で、光が散乱することなく表面だけを伝わる新しい原理を解明したと発表した。シリコンなどの半導体を材料に使っても同じような性質が得られることから、光など電磁波による効率のよい情報伝達のできる新たな素子への応用が期待される。米国物理学会の論文誌「Physical Review Letters」に掲載された。
■効率よい情報伝達の新たな素子へ応用も
一般的な物質の結晶は原子が周期的に配列しており、電子はその原子に捕まったり結晶全体に波として伝搬したりする。これに対してフォトニック結晶は、光の波長と同じくらいの屈折率の異なる物質が周期的に並んだ構造を人工的に作る。光を効率的に閉じ込めたり、光の通り道を作ったりするなどさまざまな光制御機能を持たせることができる。
材料には、性質のよく解明されているシリコンが利用できて、現在の電子技術との相性もよいことから、将来の極微細な光集積回路などへの応用が有望視されている。ところがその製造技術が難しいのが欠点だった。
MANAは微細な円柱(ナノロッド)の絶縁体や半導体を「蜂の巣格子状」の束にまとめたフォトニック結晶を作った。ナノロッドを六角形に区分けしてクラスターとし、クラスター間の間隔をさまざまに調整しながら特徴を調べた。その結果、クラスターの間隔を狭くするとフォトニック結晶の表面だけに沿って電磁波が伝搬する特異な現象を発見した。
この結晶は、単純な絶縁体や半導体の円柱の配列を調整するだけで作れることから、これまでのどの製法より格段に容易になった。
将来の光集積回路やレーザー共振器などエレクトロニクスへの応用はもちろん、ナノ構造によって光が逆方向に曲がる不思議な「負の屈折」が起こることも理論や実験で明らかになっており、電磁波が散乱されない性質を利用して物体を見えなくさせるクローキング技術のような興味深い技術も可能になるのではないかという。

フォトニック結晶の模式図。絶縁体や半導体の円柱(ナノロッド)が蜂の巣格子に並んでいる。電磁波がもれないように、金属で上下を挟んでいる(提供:(国)物質・材料研究機構)