筑波大学は6月11日、記憶力や学習能力を司る脳の神経細胞がストレスを伴う強い運動ではなく、むしろ軽い運動によって強化されることを突き止めたと発表した。ラットを用いた実験で海馬と呼ばれる脳の神経細胞の変化を調べて明らかにした。子どもや高齢者、特にアルツハイマー病患者など運動能力が弱った人でも無理のない運動によって脳を活性化できる可能性が高いという。
■軽い運動が脳の海馬の神経細胞に大きな変化与える
筑波大体育系の征矢英昭教授、ラクワール・ランディープ教授の研究グループが明らかにした。実験では、ラットを安静状態、軽い運動、強い運動の3グループに分け、6週間にわたって走行トレーニングをさせた。その後に血液を採取、ストレス状態を調べるとともに海馬の神経細胞の変化を分析した。
その結果、運動したグループは、その強度に関係なく新たな神経細胞になる可能性を持つ細胞が増えた一方で、実際に神経細胞へと分化・成熟する現象は軽い運動グループでのみ起きていた。さらに、摘出した海馬でどの遺伝子が活発に働いたかを調べたところ、安静グループに比べ運動グループでのみ遺伝子の働きが1.5倍以上に増強、または0.75倍以下に抑制されるなどの大きな変化のあった遺伝子が見つかった。
しかも、変化があった遺伝子の数は、強い運動グループが415個だったのに対し弱い運動グループは604個と多く、両グループに共通していた遺伝子は41個だけだった。この結果から研究グループは、軽い運動が海馬の神経細胞により大きな変化を引き起こし、しかもその変化は強い運動によるものとは別の因子やメカニズムによって調節されているとみている。
弱い運動グループで働きが変化したすべての遺伝子を解析したところ、タンパク質の合成促進や軽度の炎症反応の促進などにかかわる5つの遺伝子が新しい神経細胞を生み出すために特に重要な役割を果たしていることが分かった。
研究グループは「運動で高める海馬の認知機能解明に新展開をもたらす情報が得られた」として、今後これらの遺伝子が軽い運動によって神経細胞の新生や記憶力強化に実際にどのように寄与しているのかなどを詳しく解明していく。