月の表と裏の違いもたらした超巨大衝突の痕跡を発見
―探査衛星「かぐや」取得の200億点超すデータを解析
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は10月29日、月の表側と裏側の地形の違いをもたらしたと考えられている月への超巨大衝突の痕跡を発見したと発表した。
 2007年に宇宙航空研究開発機構が打ち上げた月探査衛星「かぐや」は、月の表面を網羅する約7,000万地点から200億点以上の可視赤外線反射率スペクトルのデータを取得した。産総研のチームは、このデータにデータマイニングという手法を適用して衝突溶融物に多く含まれる低カルシウム輝石の分布状況を調べ、今回、超巨大衝突を裏付ける低カルシウム輝石の偏在を発見した。
 月には光の反射率が低くクレーターの少ない「海」と呼ばれる領域と、光の反射率が高くクレーターの多い「高地」と呼ばれる領域がある。「海」は地球に面した表側に多く、裏側にはほとんどない。また裏側は、表側より標高が高く地殻が厚い。月の表面のこの「二分性」は、月の形成初期の超巨大衝突によって表側の「高地」を構成する地殻物質の多くが取り除かれたためではないかと考えられている。しかし、実際に衝突が起こったことを示す物質科学的な証拠は見つかっていなかった。
 今回のデータ解析によると、低カルシウム輝石に富む物質は、直径約1,000㎞の衝突盆地である「雨の海」の周縁部、同2,500㎞の衝突盆地である「南極エイトケン盆地」の内部、それと直径3,000㎞に及ぶプロセラルム盆地周縁の3つの領域に集中していた。雨の海、南極エイトケン盆地をつくった衝突ではマントルの一部まで溶融し、衝突溶融物が再固化する際に低カルシウム輝石を産出したことが考えられるという。
 もう一つのプロセラルム盆地周縁の分布は、月の表側ほぼ全体に及んでいた。直径3,000㎞に達する巨大盆地の形成には数百㎞サイズの天体の衝突が不可欠で、発見された低カルシウム輝石の分布状況は、月の二分性をもたらしたとする超巨大衝突説を裏付けるものだと研究チームは結論している。

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月探査衛星「かぐや」が観測した月の表側(上)と裏側(下)(提供:産業技術総合研究所)