高エネルギー加速器研究機構は11月1日、日立製作所(株)と共同で放射光科学研究施設「フォトンファクトリー」に、放射光の取り出し口であるビームラインを新たに設置すると発表した。同施設では紫外線からガンマ線までの強い光を取り出して利用できるが、新設するのはこのうち軟X線領域の放射光を利用するためのビームラインで、次世代電池の開発などに役立てる。2014年度中に運用を開始する。
フォトンファクトリーは、つくば市にある一周187㍍の円形加速器を利用した大型実験施設。電子を光速に近い速さにまで加速、その時に円の接線方向に放射される強力な光を利用する。すでに22本のビームラインが設置されており、物質の構造解析などさまざまな実験が進められている。
今回新たに設置するビームラインでは、30~4000電子ボルトの幅広いエネルギー領域にまたがる高強度の軟X線が利用可能になる。このため元素の周期表でリチウムからカルシウムまでの元素について、固体中の化学結合状態を解析できる。1回の実験で幅広い元素の物質解析が可能となるため、研究の効率化が期待できるという。
特に、次世代リチウム電池の開発では、電池の高性能化・長寿命化が大きな課題になっているが、その研究に欠かせない電極材料中のリチウムがどのような化学結合状態になっているかを解析することなどに威力を発揮する。また、鉄やコバルト、ニッケルなど、各種のモーターで使われる永久磁石の決め手となる材料の解析も可能という。炭素を含む有機化合物の計測を通じて生体細胞の解析にも役立つ。
ビームライン稼働後は一般の大学や公的研究機関にも利用を公開し、超電導や磁性で特異な性質を示すマンガンやコバルト、銅などの金属を含む酸化物で、新物質創成の材料として注目されている機能性酸化物や次世代デバイス材料の研究にも役立てる。
No.2012-44
2012年10月29日~2012年11月4日