(独)物質・材料研究機構は9月15日、大阪市立大学と共同で遺伝情報をつかさどるDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)を構成する塩基の内、ほとんど同じ構造をした2種類の核酸塩基を識別する技術を開発したと発表した。同機構が提唱する新技術体系「手で操るナノテク」研究の一環で、炭素1個の違いしかない2つの塩基チミンとウラシルを識別できたという。
新技術は、他の生体分子にも応用できるため、構造の微妙な違いで薬効が大きく異なる医薬品開発や遺伝子変異で起きる病気の診断などにも応用できる。
DNAは、チミンやアデニンなど4種類の塩基、RNAはチミンの代わりにウラシルを入れた4種類の塩基で構成され、それらの配列で遺伝情報を記録している。チミンとウラシルは、構造がほぼ同じため、生体中で遺伝情報が転写・複製される時にDNAもそれを区別できなくなって突然変異や病気の原因になることがあるといわれる。そのため、構造のよく似た分子を識別することは大きな課題とされている。
研究グループは、チミンとウラシルを吸着する「アームドシクロノナン」と呼ぶ分子を新たに合成した。これだけでは両者をうまく識別できないので、この分子を水面に浮かべて一分子層の膜にし、両端から力を加えた。これによって徐々に分子の立体構造を歪ませ、水に溶けた塩基のうちの一方だけを効率よく捉える最適な形にすることに成功した。
実験では、ウラシルだけを選択的に識別できたほか、同じ化学式を持ちながら右手と左手の関係にあるアミノ酸の光学異性体も識別できることを確認した。
研究グループは、様々な生体分子の精密な構造を識別する有力な手段になると期待している。
No.2010-36
2010年9月13日~2010年9月19日