(独)理化学研究所は9月17日、体細胞クローンマウスの遺伝子発現を網羅的に解析して、X染色体上の遺伝子群の発現低下の原因を発見すると共に、体細胞クローンマウスの出生率を10倍近くまで改善できる革新的なクローン技術の開発に成功したと発表した。
体細胞クローン技術は、核を除いた未受精卵子に提供された体細胞核(ドナー核)を移植し、ドナー核と同じ遺伝情報を持つ個体を作る核移植技術の一つで、いわゆる「コピー」の動物を生産できることから、畜産分野をはじめ、実験動物を利用する製薬や医療の分野への利用が期待されている。
しかし、1996年に体細胞クローンヒツジ「ドリー」が誕生してから10年以上経過した現在でも、体細胞クローン動物の生産効率は著しく低く、世界の研究室でその理由を解析してきたが未だに改善はされていない。特に、世界標準のモデル動物であるマウスでクローンの出生率が低く、実用化の大きな障害となっている。
研究グループは、体細胞クローンマウスの受精卵子の遺伝子を調べ、性染色体の一つであるX染色体の遺伝子群の働きが、正常より平均して27%ほども低下していることを発見した。また、その原因が、X染色体の働きを抑える遺伝子の一つであるXist(エグジスト)遺伝子が、異常に多く発現しているためであることを突き止めた。
そこで、ノックアウトマウス(遺伝子操作によりX染色体上のXist遺伝子を無くしたマウス)を作って実験したところ、X染色体上の遺伝子群ばかりでなく、常染色体(性染色体以外の染色体)上の多くの遺伝子群も、その働きが通常のマウスと同程度に回復し、正常に発現化することが分かった。
さらに、染色体上の遺伝子発現が正常化したクローン胚(作製した受精卵子)を雌マウスの卵管に移し、その出生効率を観察した。その結果、通常の8倍から9倍の効率(移植胚あたり13%から14%)で、クローン産子を作出することに成功した。
研究グループは、ウシクローン胚でも同様のXist遺伝子の異常発生が生じることを明らかにした。今後、X染色体上の遺伝子群の発現を正常化させることで、体細胞クローン技術を、基礎研究から畜産などの産業にまで展開できると期待される。
この研究成果は、米国の科学雑誌「サイエンス」のオンライン版(日本時間9月17日)に掲載された。
No.2010-36
2010年9月13日~2010年9月19日