(国)産業技術総合研究所と(国)国際農林水産業研究センター、埼玉大学などの研究グループは3月29日、葉の気孔の開き具合を調節して大気汚染物質「オゾン」に対する植物の抵抗力を高めることに成功したと発表した。気孔の開閉に関わる遺伝子を突き止めて実現した。光合成に必要な二酸化炭素の取り込みや植物の水分調節などを担う気孔の開閉を調節するため、生産性の高い作物の開発にも役立つと期待している。
高濃度のオゾンは植物体内に取り込まれると葉に障害を引き起こし、葉物野菜の品質低下や光合成能力の低下に伴う収量減少の原因にもなる。そこで研究グループは、実験用植物として知られるシロイヌナズナを用いて、大気中のオゾンに対する耐性に関係する遺伝子の探索を試みた。
シロイヌナズナが持つさまざまな遺伝子の働きを制御している約1,500種類のたんぱく質に注目、遺伝子技術を用いてこれらのたんぱく質が働かないよう遺伝的な性質を変えたシロイヌナズナを約3万種類作った。この中から、オゾン耐性が特に強いシロイヌナズナを選び出して詳しく分析、オゾン耐性に関係する2種類の遺伝子(GLK1、GLK2)を突き止めた。これらは葉緑体の発達に関わる遺伝子であることは知られていたが、気孔の開閉に関与していることがわかったのは、今回が初めて。
さらに、遺伝子技術でこれらの遺伝子の働きを抑えたシロイヌナズナは0.3ppm(ppmは100万分の1)という高濃度のオゾンに7時間さらしても葉に障害は見られず、オゾンに強い耐性を示した。このとき葉の表面から蒸発する水分量は少なく葉の表面温度が高かったことから、気孔が閉じ気味であることがわかった。反対に、2つの遺伝子が活発に働くようにしたシロイヌナズナではオゾン耐性は弱まった。
研究グループは「GLK1とGLK2の働きを抑えられると気孔が閉じ気味になり、オゾンの取り込みが減ってオゾン耐性を示したと考えられる」と話している。今回の成果はさまざまな実用植物に対しても有用なため、大気汚染物質に強い作物の開発などに応用できる可能性があるという。

高濃度のオゾンに強いGLK1SRDX形質転換シロイヌナズナ(左図)と高濃度のオゾンに弱いGLK1OX形質転換シロイヌナズナ(右図)