ヒトの胎児脳の発達を調整する酵素判明
―失われた脳機能の回復などに応用へ
:産業技術総合研究所(2016年3月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所は3月28日、遺伝子の情報の読み取りを制御する酵素の一つ、LSD1が、ヒトの胎児脳の発達を調整する機能を持つことを発見したと発表した。失われた脳機能の回復などへの応用が期待できるという。

 失われた脳機能を再生する方法として、新たな神経細胞を作り出す能力がある神経幹細胞を生体外で培養し、それを移植して効率的に神経細胞に分化させることが試みられている。ただ、この研究はこれまで細胞数も形も、分化の仕組みも異なるマウスなどの脳で行われていたため、ヒトの神経細胞の再生メカニズムについては十分解明されていなかった。

 研究グループは、DNAからの情報の読み取りを調節する「エピジェネティクス制御機構」というメカニズムに着目し、この機構に関わるタンパク質の中から、ヒトの神経細胞への分化に密接に関わるものを探索した。

 その結果、細胞の分化や増殖の制御に関わっているヒストンタンパク質修飾酵素のLSD1(リジン特異的脱メチル化酵素)が、分化を促す新たな作用を持つことを発見した。研究では、LSD1の働きを妨げるLSD1阻害剤をヒト神経幹細胞に添加したところ、神経細胞への分化が抑制されることを見出した。

 また、LSD1の働きを阻害すると、HEYLと呼ばれるタンパク質の発現が増加すること、HEYLが胎児の脳内では神経幹細胞だけで発現していること、その発現量が増加すると神経細胞の産生が抑制されることがわかった。

 これらのことからLSD1はHEYLの発現を抑制することで、神経幹細胞から神経細胞への分化を促していることが見出された。

 LSD1のこの働きはマウスの神経幹細胞では観察されなかったことから、ヒトの脳に特徴的な現象である可能性が大きいという。

 今回の発見を踏まえ、今後脳梗塞やパーキンソン病などの神経疾患の治療のための高効率な神経細胞供給の実現が期待されるとしている。

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