(国)農業生物資源研究所は3月29日、イネが複数の栄養素をバランスよく吸収・蓄積するために働いている遺伝子を発見したと発表した。この遺伝子の働きを人為的に強化したところ、普通のイネよりも収量が最大2割も向上した。今後、少ない肥料でより効率的に育つ新品種が開発できれば、余分な肥料を使わずに農業栽培の低コスト化が実現できるほか、土壌に残った肥料による環境汚染の防止にも役立つという。
植物は三大栄養素といわれるチッソ、リン酸、カリウムのほか、さまざまな栄養素をバランスよく吸収することでよく育つ。これまで遺伝子の働きを強化して1~2種類の栄養素の吸収・蓄積を促進させた報告はあるが、その場合には栄養素全体のバランスが崩れ、収量の増加にはつながらなかった。
これに対し同研究所は、水や栄養素を輸送する維管束と呼ばれるイネの組織にRDD1と呼ばれるたんぱく質が集中的に存在していることに注目。これが栄養素をバランスよく植物体内で輸送するためのカギを握っているのではないかと考えた。そこで、このたんぱく質をイネの体内で作るRDD1遺伝子の働きを強化する実験に取り組んだ。
その結果、人為的にこの遺伝子が強く働かせたイネは、少ない化成肥料による温室栽培でモミの量(収量)が通常よりも最大で約2割増加。また、各栄養素が通常の半分以下という低栄養条件の水耕栽培では三大栄養素および塩素とマグネシウムの吸収・蓄積が促進され、光合成と収量増加に必要な栄養素の供給が増強された。さらに、光合成で重要な役割を果たすクロロフィルが増加、また光合成で作られるショ糖の輸送に関係する遺伝子の働きも活発化していることがわかった。
イネにはRDD1遺伝子に似た遺伝子がほかにも3つ存在しており、栄養素の吸収・輸送・蓄積に関して他の役割を担っている可能性がある。そのため同研究所は今後、これらの遺伝子の機能の解明にも取り組む。

RDD1遺伝子の効果
RDD1遺伝子の働きを強めると複数の栄養素の吸収・蓄積が促進され、収量が増加する。