微細トランジスタの動作中の温度測定に成功
―次世代集積回路の信頼性向上に貢献
:慶應義塾大学/産業技術総合研究所

 慶應義塾大学と(独)産業技術総合研究所は12月9日、ナノメートル(ナノは10億分の1)スケールの微細なトランジスタの動作中温度を正確に測ることに成功したと発表した。この計測で、微細な素子では温度上昇の影響が無視できないことを見出し、温度を下げるための設計指針を得た。次世代集積回路の信頼性の向上・確保が期待できるという。

 

■不純物イオン注入で指針

 

 電子機器の心臓部をなす半導体集積回路は、高速性と低消費電力化が求められ、その実現に近年、シリコン酸化膜(BOX層)上に単結晶シリコン(SOI層)を形成したSOI基板の導入が検討されている。
 SOI基板に作製したトランジスタは優れた特徴を持つ一方、トランジスタ動作中にチャネル(電気の流路)近傍の局所領域の温度が周囲に比べて上昇してしまうことが指摘されており、この上昇によって集積回路の信頼性が低下し、回路全体の消費電力の上昇も懸念されている。
 このため、温度上昇の抑制が重要とされているが、こうした微細なトランジスタの動作中の温度を測定した例はこれまでなかった。
 研究チームは今回、温度変化に伴う抵抗変化が大きなニッケルシリサイド(NiSi)を多結晶シリコンに貼り付けた4端子ゲート電極構造を計測法に取り入れ、高精度の抵抗評価技術と組み合わせることで、ナノメートルスケールのトランジスタの動作中の温度を非常に高い精度で測定することに成功した。
 測定の結果、①BOX層を薄膜化してもSOIトランジスタの動作温度は40℃程度上昇する、②トランジスタの熱抵抗は基板全体の温度に依存する、③現在量産されているバルクトランジスタでサイズが40nm程度のものではチャネル近傍の温度が20℃以上上昇する―などが分かったという。
 ナノメートルスケールの素子でのこうした温度上昇は無視できず、チャネル領域への不純物イオン注入では電気的条件だけではなく、今後は熱的条件も考慮して最適化する必要があるとの指針が得られたという。
 次世代のパソコンやスマートフォンなどに用いられるLSIの高信頼性化に結びつく成果が得られたとしている。

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