(独)物質・材料研究機構は12月4日、粘土鉱物の一種「ハイドロタルサイト」に含まれる炭素が数日で大気中の二酸化炭素(CO2)との間で交換されている現象を発見したと発表した。岩石に固定された炭素が外に出て地球規模の炭素循環に組み込まれるのは、100万年単位の時間が必要という従来の常識を覆した。粘土鉱物が大気中のCO2を呼吸しているかのように見える新現象の発見は、地球温暖化のより正確な理解や、効率的な二酸化炭素分離膜の開発などにつながると期待している。
■「100万年単位が必要」の常識覆す
発見したのは、同機構・国際ナノアーキテクト研究拠点の石原伸輔研究院と井伊伸夫特別研究員らの研究グループ。
岩石に含まれる炭素は約6京tに上り、大気中の7200億トt海水中の38兆tを大きく上回る。このため岩石中の炭素が大気中のCO2との間で速やかに交換されれば、地球温暖化に大きな影響を与える可能性がある。
研究グループは、地球上の炭素の98.9%を占める炭素12と化学的には全く同じ性質を持ちながら、自然界には0.1%しか存在しない同位体の炭素13に注目。この同位体で目印を付けた炭酸イオンを含むハイドロタルサイトを使って、大気中のCO2との間で起きる炭素交換の様子を調べた。
実験では、炭素12と炭素13による赤外線の吸収波長が微妙に異なる現象を利用、ハイドロタルサイト内の炭素13が大気中の炭素12と置き換わっていくか速さを調べた。その結果、ハイドロタルサイトに含まれる炭酸イオンの炭素が、数日から一週間程度で大気中のCO2と入れ替わっていることがわかった。
岩石に含まれる炭素が地球規模の炭素循環に戻るには、これまで岩石が風化する100万年単位の時間がかかるとされていた。ハイドロタルサイトは自然界にはそれほど多く存在していないが、よく似た粘土鉱物が存在することから、今回の発見によって地球規模の炭素循環に岩石が大きな役割を果たしている可能性も出てきそうだ。