(独)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は11月1日、北海道大学、(株)たすく、(株)中山組、環境エンジニアリング(株)と共同で、酪農雑排水だけでなく、より汚濁成分濃度が高い養豚場の尿液や澱粉工場の廃液など、様々な有機性汚水を通年で低コスト浄化できる多段式のハイブリッド伏流式人工湿地ろ化システムを開発したと発表した。新開発のシステムを用いれば同程度の処理能力のある従来の機械的処理法に比べて、初期費用は3分の2程度、電気代などの施設運転費用は20分の1程度ですむという。
■施設運転費用20分の1程度に
畜産農家や食品工場などの汚水は一般の生活排水より有機物濃度が高く、悪臭の問題もあるので、河川などに放流するには処理が必要されるが、従来の機械的な方法ではコストが高くついた。そのため、農研機構では平成18年に酪農雑排水を河川に放流可能なまで浄化できる多段式の人工湿地ろ化システムを開発した。それを一段と進めて酪農雑排水よりも有機物や窒素・リン濃度が10倍以上も高い養豚尿液や馬鈴薯澱粉工場廃液も処理できるろ化システムとして開発したのが、今回発表のシステムである。
新開発のシステムは、人工湿地に設けた砂利や砂の層を通して汚水をろ化する伏流式システムになので、冬も汚水処理ができる。ろ化方式は汚水を垂直方向に通す方式と水平方向に通す方式の双方を用いるハイブリッド方式になっており、垂直ろ化水の一部は循環させて浄化能率を高めている。また、ろ化による目詰まり防止のためにバイパス構造を強化、ろ床の表面に廃ガラスをリサイクルした人工軽石などを多く敷設した。これらの手法により、有機物を食べるミミズの繁殖が盛んになり、浄化能力が向上した。
農研機構によれば、開発された新システムは酪農、養豚、澱粉工場からの排水だけでなく、鶏卵洗浄排水、チーズ工房排水、国立公園二次処理水などを浄化する実用施設として検証ずみで、今年8月現在、北海道・東北・関東とベトナムの14カ所で既に運用されている。

上は原水と処理水。下は、ろ過システムの流れ。飼料採取ポイントの番号は、上の写真のサンプル番号に対応(提供:農研機構)