ギボシムシに神経管形成の兆候発見
―ヒトの脳の進化探る糸口に
:筑波大学

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変態観察に成功したギボシムシの新種「シモダギボシムシ」(提供:筑波大学)

 筑波大学は10月31日、約7億年前に誕生したといわれる多細胞動物が脊椎動物に進化する過程で獲得した脳など中枢神経の起源の謎を解明する糸口を見出したと発表した。進化学的にヒトや魚類など脊椎動物に最も近い無脊椎動物「ギボシムシ」が卵から成体へ成長する過程を詳しく観察することに初めて成功、その発生過程で生じる神経の形状や遺伝子の働きが脊椎動物とよく似ていることを突き止めた。

 

■新種のキボシムシで変態過程観察

 

 研究したのは、筑波大生命環境系の和田洋教授と同大学院生命科学研究科の宮本教生さん(現在は海洋研究開発機構に所属)の研究グループ。
 ギボシムシは海底の砂泥中に生息する体長数cmの無脊椎動物で、ヒトや魚類など脊椎動物の起源を解明するカギとなる動物として世界的に注目されている。ただ、卵から幼生を経て成体になるまでの変態期の観察が難しく、脊椎動物の中枢神経に相当する管状の神経管の構造が発生過程でどのように作られていくのかわからなかった。
 これに対し、宮本さんは2007年に日本近海で新種のギボシムシ「シモダギボシムシ」を発見、1~2カ月にわたる幼生の飼育を続けることで、その変態過程を観察することに初めて成功した。
 その結果、ギボシムシの神経が管状になり、管状の神経の背側と腹側に異なる神経細胞ができることを発見。さらに、脊椎動物で脳など中枢神経の背側と腹側の分化を制御するときに働く遺伝子が、ギボシムシの消化管の前方端が突き出してできる口盲菅でも働いていることを突き止めた。
 ギボシムシのような「ムシ」型の祖先から脊椎動物の「サカナ」型に進化する過程は動物学的に最も謎が多いとされている。今後は今回の成果をもとに、ギボシムシの口盲菅と脊椎動物の中枢神経系の起源との関係や、口盲菅の形成に関わる遺伝的メカニズムについて注意深く検証していきたいとしている。

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