(独)農業生物資源研究所は12月19日、体内の黒い色素の合成を抑制して昆虫の体の色を変えることに成功したと発表した。昆虫が持つ特定の遺伝子の働きを強化することで、色素合成を抑制した。遺伝子組み換えで昆虫に医薬品など有用物質を生産させる研究が進んでいるが、新技術は昆虫に目的の遺伝子が組み込まれたかどうかを体表の色で簡単に識別する手法になると期待している。 カイコの遺伝子組み換えでは、例えば蛍光を発する遺伝子と一緒に目的遺伝子を組み込んで組み込みの成否を判断する技術が使われる。ただ、従来の手法では、[1]高価な蛍光顕微鏡が必要、[2]卵に色が付く実用品種には向かない―などの問題があった。そこで同研究所は、名古屋大学と共同で昆虫の体表の色で識別する研究に取り組んだ。 まず、昆虫の黒い色の主要成分とされる色素「ドーパミンメラニン」が神経伝達物質としてよく知られるドーパミンから合成されていること、さらに同じドーパミンが昆虫の体表の膜を作る際に必要なNアセチルドーパミンと呼ばれる物質の合成にも使われることに注目。この物質合成を遺伝子組み換えによって体内で強めてやれば、ドーパミンがそちらに使われて色素合成は抑制されるのではないかと考えた。 実験で用いた昆虫は、カイコとキイロショウジョウバエ、テントウムシの3種。Nアセチルドーパミンを合成するカイコの遺伝子「Bm‐aaNAT(アリールアルキルアミンNアセチルトランスフェラーゼ)」を昆虫の体内に組み込み、その働きを強めたところ、カイコでは、通常は黒い幼虫が明るい褐色に変わった。色の変化は成虫の触覚でも確認できた。キイロショウジョウバエの成虫とテントウムシの幼虫でも黒い色が薄くなった。 研究グループは、今回の成果について「遺伝子組み換え体の選抜が格段に容易になり、カイコを用いた遺伝子機能解析や有用物質生産に向けた研究開発が加速される。カイコ以外の昆虫にも利用できる」と期待している。
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Bm‐aaNAT遺伝子を強く働かせたことによるショウジョウバエの色の変化。左側に比べ全体的に色が薄くなった(提供:農業生物資源研究所) |
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