ウイルスの遺伝情報複製で残された謎解明
―新タイプの抗ウイルス薬開発に道
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は8月10日、ウイルスが増殖する際に不可欠な遺伝情報複製の最後に起きる化学反応の仕組みを解明したと発表した。ウイルスの全遺伝情報を記録するゲノムRNA(リボ核酸)の複製を完成するには、その最終段階で特定の化学反応が必要になるが、これまでどのような仕組みでその反応が起きるかは解明されていなかった。さまざまな病気につながるウイルスのゲノムRNAが複製されるのを防ぐ新手法に道を開いたもので、新しい医薬品の開発につながると期待している。
 ウイルスは、遺伝情報を伝える物質としてDNA(デオキシリボ核酸)を持つものとRNAを持つものに大別されるが、産総研バイオメディカル研究部門の富田耕造研究グループ長らは大腸菌に感染するRNAタイプの「Qβウイルス」を用いた。
 ウイルスは、宿主の遺伝情報複製の仕組みを一部借りながら自分のRNA合成酵素を使ってRNAを複製する。その合成の最終段階でRNAの末端に自分のRNAにはないアデノシンと呼ばれる物質が付け加わる化学反応が起きて複製が完了する。ただ、この付加反応がどのような仕組みで起きるかは、分かっていなかった。
 そこで研究グループは、アデノシンが付加される直前と後でRNA合成酵素の構造がどのように変化するかをX線で解析した。その結果、ウイルスのRNAを鋳型にして作られたRNAが合成酵素と結合して複合体を作り、合成酵素の形を一部変化させ、その形状変化がいわば触媒機能を発揮してアデノシン付加反応を進めることが分かった。
 アデノシンは、RNAの合成開始や宿主のRNA分解酵素によるウイルスRNAの分解を防ぐために必要であることが知られており、付加反応はRNAゲノムの複製に欠かせないとされている。
 今回の成果について研究グループは、「ウイルス増殖に必要なRNA合成の終結メカニズムが解明されたことで、正常なRNA合成を阻害する手法が検討できる」として、新しいタイプの抗ウイルス薬の開発につながるとみている。

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