筑波大学は8月10日、パルス幅ナノ秒のレーザーを用いて世界で初めてラマン光学活性測定に成功したと発表した。分子の構造などを読み取れるラマン分光法に白色レーザーを組み込むことで得られた成果で、化学反応過程における分子のキラリティ(右型と左型分子の差異)を追跡できる画期的な手法が開発できたとしている。
分子を鏡に映した像がもとの分子と一致しない、いわゆる分子構造に右型、左型のある分子をキラル(光学活性)な分子といい、生体を構成する分子に多くみられる。キラルな分子は、生命活動の重要なカギを握っていることから、生体内反応の分子メカニズムの解明を目指し、フェムト秒(1000兆分の1秒)~ナノ秒(10億分の1秒)の時間分解能でキラリティを測定する分光手法の開発が近年精力的に進められている。
研究チームは、そうした手法の一つではあるが、パルスレーザーを用いた測定は困難と考えられていたラマン光学活性(ROA)という手法の活用に挑戦、今回、白色レーザー(紫外から近赤外までの幅広いスペクトル成分を持つレーザー)を用いた新測定法を開発し、「コヒーレント・ラマン分光法」と呼ばれる手法による分子のキラリティ検出に成功した。
開発した手法は、原理的にほぼ全てのキラル分子に適用可能で、なかでも水溶液中での透明な生体分子の構造変化を観測するのに強力な武器になることが期待できるという。また、細胞内で機能しているキラル分子のありのままの様子を捉えられることから、タンパク質などの機能発現のメカニズム解明をはじめ、2タイプのキラル分子のうちの1タイプだけが生体内分子に偏って存在することの起源の解明、あるいは新たな医薬品開発への応用などが期待できるとしている。
No.2012-32
2012年8月6日~2012年8月12日