(独)物質・材料研究機構は8月7日、優れた接着性を持つ「昆虫の足」の研究で、大気中で生息するハムシが、「泡を利用して水中での歩行ができる」ことを発見したと発表した。 廃棄物の解体・再利用などの循環型社会実現に向けて「接着と分離」の技術が重要な問題となる。その中で接着の新技術のヒントにされているのが昆虫。昆虫の足は、ガラスのような平坦な表面を、逆さまの状態でも歩行できる優れた接着性を持ち、しかも歩行は、足を表面に「付ける→離す」という連続動作によるため、「接着と分離の優れた繰り返しのモデル」として世界的にも注目されている。 この研究は、同機構のハイブリッド材料ユニットの細田奈麻絵グループリーダーが独マックスプランク研究所、スタニスラヴ・ゴルブ・キール大学教授らと共同で進めた。 これまで大気中に生息する昆虫(ハムシやテントウムシ)の研究によって、足裏の特殊な毛の役割が解明され、ナノテクノロジーにより人工的な毛状構造を再現した接着性のある素材も製作されている。しかし、水中の環境については研究が少なく、昆虫は、水中では歩けないと考えられていた。 同機構の今回の研究では、昆虫(ハムシ)が、従来の予想に反し「水中」でも歩行できることを発見し、さらに水中で「泡」の性質を巧みに利用する歩行メカニズムも解明した。 ハムシの水中での歩行能力を調べるために、水中に置いた板の上を歩かせる実験を行った。水をはじく性質(疎水性)の板では、歩行能力は空気中と変わらなかった。しかし、水になじむ性質(親水性)の板では泡が水をうまくはじけず、思うように歩けなかった。 また、ハムシの水中歩行での毛状構造と泡の役割を調べるため、毛状の水中接着機構を考案し、泡の接着力などの測定を行った。その結果、泡の役割は、泡自身の表面への接着力のほかに、ハムシの足の裏の水を弾いて、毛状構造を直接表面に接着させていることが分かった。また、足の裏の毛状構造は、泡の安定な固定に役立っていることも明らかになった。 今回の研究成果は、「接着と分離を繰り返せる未来の接合技術」、特にクリーンな「水中接着技術」の開発研究に活用でき、将来は、水中監視や作業ロボットへの応用なども期待される。
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泡を利用して足の裏を水中で固定する模式図(提供:物質・材料研究機構) |
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