(独)物質・材料研究機構は8月8日、新電子材料として注目される磁性強誘電体「マルチフェロイクス」の磁気・誘電特性を大きく制御することに成功したと発表した。英国オックスフォード大学などと共同で、強い磁場がなければ強誘電分極しなかった物質が原子の一部置き換えで磁場ゼロでも分極することを見出した。電場で磁化を、磁場で誘電分極を制御できる次世代の大容量記憶素子や新エネルギー変換材料などの開発に役立つと期待される。
同機構の寺田典樹主任研究員らの研究グループが、英国のラザフォード・アップルトン研究所、オックスフォード大と共同で研究を進めた。
マルチフェロイクスは、従来の材料とは反対に磁場で誘電分極を、電場で磁化を制御できる物質で、新タイプの記憶素子などへの応用が期待されている。
研究グループは、まず銅と鉄を含むデラフォサイト型と呼ばれる酸化物「CuFeO2」が強磁場下で強誘電分極するマルチフェロイクスとしての特性を持つことに注目した。この特性は従来、磁性を示す鉄原子に由来するとされていたが、今回初めて非磁性の銅に着目。同じ非磁性の銀に置き換えた「AgFeO2」を合成して誘電特性の変化を調べた。その結果、磁場がない環境でも強誘電分極が現れるようになり、マルチフェロイクス材料としての特性が非磁性原子の置き換えでも大きく変わることを初めて確認した。
マルチフェロイクス材料については、室温で大きな強誘電分極を示す材料探しが世界的に進んでいるが、成功例は数少なく新しい発想に基づく材料開発が求められていた。試作した物質の強誘電特性は、まだ極低温でしか現れないため、すぐに実用に直結するわけではないが、研究グループは今回の成果について「今後の材料探索に新しい指針を与える」と話している。
No.2012-32
2012年8月6日~2012年8月12日