(独)物質・材料研究機構、(独)理化学研究所、東京大学は8月7日、電子スピンの向きが渦巻き状に並ぶ「スキルミオン」の結晶を作り、従来の10万分の1という微小電流密度でスキルミオン結晶を駆動させることに成功したと発表した。これは、磁気的な情報担体の状態を極めて低消費電力で操作できる可能性を示しており、磁気情報を電気的に操作する次世代磁気メモリーの実現に一歩近づく成果である。
スキルミオンは、電子スピン(磁気的性質を生み出している電子の回転)が渦状の模様を形成している状態を指し、スキルミオンが固体中に格子状に規則的に配列している状態をスキルミオン結晶と呼んでいる。
研究チームは2年ほど前に、らせん磁性体FeGe(鉄ゲルマニウム)に磁場を加えるとスキルミオンが形成され、さらに一定の磁場と温度の下でスキルミオン結晶ができることを見つけた。今回、磁化状態の観察が可能な厚さ100nm(ナノメートル、1nは10億分の1m)の薄膜部分を持つマイクロ素子をFeGeで作製し、この素子に0~150mT(ミリテスラ、Tは磁束密度の単位)の磁場を加え、特殊な電子顕微鏡で磁化状態を観察した。
ゼロ磁場ではスキルミオンは形成されなかったが、150mTを印加すると室温付近でスキルミオンの形成が見られた。そこで電流密度を徐々に増やしながら素子に電流を流したところ、約18mA/cm2以上でスキルミオンは回転し始め、26mA/cm2を超えるとスキルミオン全体が移動するのが認められた。
スキルミオンを駆動するのに必要な最小の電流密度(臨界電流密度)を調べたところ、温度の上昇に伴って臨界電流密度は減少し、-3℃の時、約5A/cm2を記録、それが最少であった。従来、磁化の反転を可能とするこの種の移動(強磁性体における磁壁駆動)では約10万A/cm2より大きな電流密度が必要だったことから、約10万分の1に低減できたことになるとしている。
電子スピンの向きを「0」、「1」のデジタル情報として利用する磁気メモリー素子は、高速で不揮発性などの特徴があり、その磁気情報を磁場ではなく電気的に操作する次世代低消費電力メモリーの研究開発が近年盛んになっている。研究チームはスキルミオンを利用した次世代メモリーの開発に向けて一歩踏み出せたとしている。
No.2012-32
2012年8月6日~2012年8月12日