
多孔性リン脂質粒子の薬物挙動の例。蛍光標識デキストランを封入した場合の放出パターン、急速な放出と緩やかな放出の2段階の放出挙動が観察され、蛍光標識デキストランが細孔内と脂質2分子膜間に分かれて取り込まれていることが示唆された(提供:(独)物質・材料研究機構)
(独)物質・材料研究機構は3月10日、薬剤を体内の必要な場所に必要な時に送り込むドラッグデリバリーシステムに好適なメソポーラス粒子(多孔性粒子)を開発したと発表した。生体由来の物質だけでできているので安全性が高く、また簡単に調整できるので工業生産に適しており、医薬品の担体をはじめ化粧品原料などへの利用が期待できるという。
■医薬品担体や化粧品原料に
開発したのは生体膜の主要成分であるリン脂質から成る、大きさ2~50nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の細孔、いわゆるメソ孔をたくさん持つ粒径5~20μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)の多孔性固体粒子。
研究チームは今回リン脂質の素材として水添大豆レシチンを用い、これを溶液に溶かして17~18℃以下に冷やし、リン脂質を析出させた。リン脂質は液滴によって球に成形されており、これを凍結乾燥して溶媒を抜き、細孔を形成させた。
この製法は凍結乾燥機の中で調整を完結することができ、非常に簡便なのが特徴という。
できた多孔性粒子は生体膜と同様の脂質2分子膜で構成されており、疎水性薬物、親水性薬物の両方の担体(運び手)になる。疎水性薬物は脂質2分子膜内に埋め込むことができ、親水性薬物は脂質2分子膜間の親水領域に挟むことができる。細孔内にも薬物を入れることができるので、さまざまな物性の薬物の担体として機能するという。
ドラッグデリバリーの担体開発の課題の一つは安全性の担保だが、リン脂質は添加剤としての利用実績があり、実用化の面で大きな利点としている。また、従来研究されてきたシリカやカーボンなどの多孔性材料が固い材料だったのに対し、新開発の粒子は柔らかい材料であり、幅広い用途が期待できるとしている。