(独)理化学研究所は3月12日、受精卵が胎児になっていく発生の過程で手足や臓器などが形づくられる形態形成のナゾを解明する手がかりを得たと発表した。マウスを用いた実験で形態形成に深くかかわる遺伝子の一部を変えると、手足に形態異常などが起きることを突き止めた。遺伝子の特定部位と形態形成の関係を詳しく解析する道が開け、発がんの仕組みなどの解明にも役立つという。
■発がんの仕組みなどの解明に期待
理研バイオリソースセンターの牧野茂・開発研究員、権藤洋一・チームリーダーらと和歌山県立医科大学、カナダ・トロント小児病院の共同研究で明らかにした。研究グループが注目したのは、「ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達系」と呼ばれる生体内の制御機構。複数のタンパク質を介して信号を伝え、形態形成や発がんに重要な役割を果たすことが知られている。
今回の実験では、この伝達系の最終段階で働く「Sufuタンパク質」を作る遺伝子を詳しく解析した。まず遺伝子の暗号を一部だけ変えた16系統の突然変異マウスを作ったところ、1系統に手足の指が多い重度の形態異常や神経系の形成不全が起きていることが分かった。また、遺伝子が作るタンパク質を構成する396番目のアミノ酸に変異が生じていた。
このタンパク質は、もともとHh伝達系の最終段階で3種類のタンパク質を作る信号役として働くことが知られている。シグナル伝達を活性化するタンパク質2種類と、抑制する1種類で、これらがバランスをとって正常な形態形成を制御すると考えられている。
ところが今回、重度の形態異常を起こした突然変異マウスでは、タンパク質の396番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置きかわり、抑制型タンパク質の働きに影響を与えた。一方、活性型は何の影響も受けなかった。この結果、形態形成のバランスが崩れる可能性があることが分かった。
これまで、特定の遺伝子を壊すノックアウトマウスを用いた研究で、Hhシグナル伝達系に関連する多くの遺伝子が突き止められてきた。しかし、Sufu遺伝子をノックアウトすると、マウスが発生初期に死んでしまい、胎児に近い発生後期や生後での遺伝子機能の解析はできなという問題があった。このため、研究グループは、ノックアウトではなく遺伝子機能を部分的に変えた「点突然変異マウス」を開発、Sufu遺伝子による制御機構の解明を目進めた。