筑波大学の西村健助教と久武幸司教授らの研究グループは10月3日、皮膚などの体細胞を初期化してどんな臓器の細胞にもなれるiPS細胞に誘導する過程を一時的に停止させた「中間体」を作ることに成功したと発表した。一時停止状態の細胞は、その性質を変えずに増殖させることができ、誘導過程の詳細な解析に役立つ。再生医療への応用に不可欠な、がん化リスクの少ないiPS細胞を効率よく作る手法の確立につながる。
■がん化リスク少ない再生医療へ
受精卵はたった1個の細胞から体のあらゆる組織を作れる多能性を持つのに対し、いったん特定の組織の細胞になると、その多能性は失われる。ところが、この細胞に4種類の遺伝子を入れると再び受精卵と同様の多能性を回復することを京都大学の山中伸也教授が発見、2012年にノーベル賞を受賞した。
今回、研究グループは、細胞内で初期化を誘導する4つの遺伝子の働き方のバランスを自由に操作できる技術を開発。4遺伝子のうち特に「Klf4」と呼ばれる遺伝子の働きを抑制すると、そのときだけ多能性の低い細胞が誘導されることを、マウスの実験で発見した。
そこで詳しく分析したところ、Klf4遺伝子の抑制によってiPS細胞の誘導が途中で一時的に停止し、多能性の段階が異なる細胞ができることが分かった。この細胞は長期間にわたって培養でき、性質も変化しない。一方で、Klf4遺伝子を活性化させると、再び多能性の高いiPS細胞への誘導が始まった。ヒトの細胞を用いた実験でも同様の結果を得た。
一般に、体細胞からiPS細胞を誘導する際に多能性を十分に獲得していない細胞が混じることがあるとされている。こうした細胞を再生医療に利用して患者に移植すると、がん化するリスクが残るがことが問題とされていた。
研究グループは、今回の成果によってより安全なiPS細胞を作るための道が開かれたとみており、「iPS細胞の再生医療への実用化が加速する」と期待している。