鉄系超電導物質で新たな磁気秩序相を発見
―超電導メカニズムの解明の手掛かりに
:高エネルギー加速器研究機構/東京工業大学

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京工業大学は3月17日、高温超電導物質の一つとして知られる鉄系超電導物質で、これまでとは異なる第2の磁気秩序相を発見したと発表した。超電導メカニズムの解明の有力な手掛かりになることが期待されるという。

 

■3つの量子ビームで調査

 

 新たな磁気秩序相が見つかったのは東工大の細野秀雄教授らが2008年に発見した希土類元素ランタン(La)を含むランタン、鉄(Fe)、ヒ素(As)などから成る鉄系超電導物質LaFeAs(O1-χHχ)。
 この物質は、鉄とヒ素でできたシート状の骨格(Fe2As2)にランタンと酸素でできたブロック層が挟まれた構造になっており、マイナス2価の酸素イオンの一部をマイナス1価のフッ素イオンに置き換えるなどの操作をすると、シート層における電子濃度の増大とともに磁気秩序が消失し、代わって超電導状態が現れる。
 細野教授らはフッ素の代わりに水素で酸素を置換したところ、これまでの限界を大きく超えた高濃度にまで電子を供給できること、高い電子濃度側(0.2<χ<0.5)に超電導転移温度がより高いピークを示す領域(第2の超電導相)があることを発見した。
 そこで共同研究チームは今回、ミュオン、放射光、中性子という3つの量子ビームを用いたマルチプローブという手法で高い電子濃度領域における磁気的な性質や構造を調査した。その結果、水素置換濃度χが0.4を超える領域で微細な構造変化を伴う新たな磁気秩序相が現れることを見出した。この磁気秩序相は第2の超電導相と隣接しており、従来知られていた母物質(χ=0)における磁気秩序相とも質的に異なることから、もう一つの母物質の発見と判断されるという。
 今後、第1の超電導相、それに隣接する磁気秩序相と第2のそれらとを詳細に比較研究することにより、鉄系超電導の本質に迫る有力な手掛かりが得られ、超電導転移温度を上昇させるための指針の作成などが期待できるとしている。

詳しくはこちら