(独)国立環境研究所は1月23日、鶏胚を用いてオスとメスの脳を入れ替えたニワトリを世界で初めて作製し、脳がオスで身体がメスの成鳥では行動や性ホルモンの血中濃度がメス型であるにもかかわらず、性成熟の遅れや産卵周期に乱れが生じ、生殖機能に障害が現れることが分かったと発表した。
北里大学、東京医科歯科大学、広島大学、早稲田大学との共同研究の成果で、脳の性差解明の新たな手がかりになるのではと期待されている。
人間を含む脊椎動物のオスとメスは、身体のつくりや生理機能において多くの違いがある。メスでは卵巣、オスでは精巣の分化・発達が起こり、その性差はほとんどがそれぞれの器官から分泌される性ホルモンの働きによって生じるというのが通説となっている。
今回の研究成果は、脳の性によって決まるオスとメスの性質を調べるため、「キメラ鶏」と呼ばれる脳とそれ以外の身体の性が異なるニワトリを外科的操作によって作ることに成功し、得られたもの。
鳥類は、卵の中で胚が育つので、微小なナイフを使っての外科的操作により発育初期の胚で脳を交換することができる。国立環境研などの研究グループは、2つの卵のそれぞれの鶏胚から神経管という脳の基となる構造を微小ナイフで切り出し、相互に入れ替える外科的操作により脳がオスで身体がメスのキメラ(同一の生物の中に異なった遺伝情報を持つ細胞が混在する生命体)を作った。
脳がオスで身体がメスのキメラ鶏は、産卵開始の遅延や産卵周期の乱れによる産卵数の減少が見られ、身体がオス型かメス型かに関わらず脳に含まれる女性ホルモンの一種「エストラジオール」の量はオスの脳の方がメスの脳よりも多いという結果が得られた、としている。
同研究所では、神経回路を詳細に調べることができれば、脳の性差、さらには脳疾患の男女差の解明に近づくことができるものとみている。
No.2013-3
2013年1月21日~2013年1月27日