カーボンナノチューブで透明導電フィルム
―室温で成膜、折り曲げでき大面積化も容易
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は1月25日、ナノ材料として注目されるカーボンナノチューブを用いてパソコンなどのディスプレーに不可欠な透明導電フィルムを作ることに成功したと発表した。真空や高温プロセスを必要とせず、印刷や塗布によって作製できるため、省資源・省エネ性に優れている。折り曲げ可能でフレキシブルな大面積タッチパネルも実現でき、公共施設や病院、店舗などの情報端末として広く活用できると期待される。
 カーボンナノチューブは、炭素原子が結合してできた、直径がナノメートル(1nmは10億分の1m)レベルのチューブ状物質。チューブが入れ子状に2重、3重になっているものもあるが、今回は1層だけの材料を用いた。
 まず、この材料を高濃度・高粘度のインク状にし、透明なプラスチック基板上に垂らす。基板との間にわずかなすき間を置いて直角にあてた刃を滑らせる装置を開発、厚さの均一な透明導電フィルムを作った。基板と刃のすき間を調整すれば、厚さをナノメートルレベルで制御できる。インクには分散剤と呼ばれる高分子が含まれるが、高強度の光を照射するなどの方法で焼却除去する。こうして作ったカーボンナノチューブの薄膜に微量物質を入れる「ドーピング」と呼ばれる操作を施すことで透明導電フィルムが得られた。
 試作フィルムによる実験では、これまでに報告されたものと比較して世界最高レベルの透明性・導電性を持つことを確認。また、半径1cm程度の曲面上に折り曲げる試験では20万回、半径2mmでも5万回まで導電性は保持されていたという。
 透明導電フィルムとしては従来、主に酸化インジウムスズ膜が使われていたが、曲げに弱いうえ、微小なひびが入りやすいという弱点を持っていた。また、大面積化が難しいうえ、製造設備にも大きな投資が必要で低コスト化が困難だった。
 産総研は今後、太陽電池や有機ELディスプレーなどの幅広い用途開発を目指すとともに、共同研究企業を募って製品化への課題を検討したいとしている。

詳しくはこちら

プラスチック基材上に作製したカーボンナノチューブ透明導電フィルム(提供:産業技術総合研究所)