(独)産業技術総合研究所は8月27日、ナノ技術を用いた新素子「強磁性ナノコンタクト素子」に直流電流を流すことでミリ波領域の高周波が発振できることを理論的に示すことに成功したと発表した。次世代の無線通信やセンサー技術への応用が期待できるとして、同研究所は、今回の理論に基づく高周波発信素子の試作に取り組み、新しい無線通信システムなどの実現を目指す。
電波資源の枯渇が問題になる中で、十分に利用されていない周波数30GHz(ギガヘルツ、ギガは10億)~300GHzのミリ波を効率よく発振できる素子が求められている。これまでも巨大磁気抵抗素子や強磁性トンネル接合素子などで実現する試みがあるが、発信周波数が低く、レーダーなどへの応用は難しいとされていた。
今回取り組んだ強磁性ナノコンタクト素子は、2枚の強磁性金属電極をnm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)サイズの絶縁体でつないだ素子の電極間に電流を流すシミュレーション実験。上の電極はスピン(磁石の性質を持つ電子を回転するコマになぞらえた物理量)が一方向にそろった固定層、下の電極はスピンの向きが自由に動ける自由層とした。
これに外部磁場をかけた状態で固定相側から自由層側に直流電流を流すと、自由層と絶縁体の接点に味噌すり運動をするコマのように振る舞う電子スピンの波ができ、発信現象が起きる。5GHz~140GHzという広い範囲で発振周波数を連続的に制御できることも分かった。
従来の周波数限界を打ち破る素子が実現できれば、チップ間の高速無線通信やミリ波を利用したナノサイズの生体センサーの実現に役立つ。このため研究グループは今後、実際に素子を試作・評価するなどの開発研究に取り組みたいとしている。
No.2012-35
2012年8月27日~2012年9月2日