熱電変換、世界最高性能の導電性高分子薄膜を開発
―希少・毒性元素含まず、環境発電など応用に期待
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は8月31日、熱電変換性能の高い導電性高分子薄膜の作製に成功したと発表した。有機材料の中では世界で最高の性能指標を達成した。今後製法を工夫するなどして性能をさらに高め、排熱を有効活用する環境発電などへの応用につなげたいとしている
 熱電変換材料は、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変える物質で、環境に放出されている様々な排熱を電気に変えて取り出したり、人体のぬくもりから微弱な電気を得て携帯機器に用いたりするなどの活用法が考えられている。
 熱電変換性能は、材料の熱起電力(ゼーベック係数)、導電率、熱伝導率に依存し、熱起電力と導電率が大きく、熱伝導率が小さいほど大きい。これまで最も熱電変換性能の高い材料としてビスマス-テルル系の無機材料が知られているが、毒性のある元素を含んだり、原料が稀少で高価だったり、硬いので設置場所に制約がある、などの問題を抱えていた。
 近年高い導電性を示す高分子材料の開発が進んでいるが、導電性高分子材料は、希少元素や毒性元素を含まず、大面積化が可能であり、柔軟性を持つなどの特徴がある。また、高い導電性を示すPEDOPという有機高分子材料で昨年高い熱電変換性能が報告され、有機系材料への期待が高まっている。
 こうした中、産総研の研究チームは、非常に導電率が高いPEDOT:PSSという導電性高分子材料に着目、新たな製法に挑戦した。薄膜化する前に有機溶媒を混ぜ、薄膜形成後、溶媒を蒸発させて熱処理するというもので、導電率を2~3桁向上させることに成功した。混ぜる有機溶媒としてはエチレングリコールが最も効果的であったという。
 熱電変換材料の性能は、「無次元性能指数(ZT)」という数値によって示され、有機系材料ではPEDOT:トルエンスルホン酸塩のZT=0.25というのがこれまでの世界最高記録。新製法で作ったPEDOT:PSSのZTを求めたところ、ZT=0.27で、最高記録を更新した。
 エチレングリコール添加により非常に高い導電性と熱電変換性能が得られたのは、エチレングリコールが蒸発する過程で溶媒に分散しているPEDOT:PSSのナノ結晶粒子が非常に高い秩序を持って配列されるためと考えられるという。
 研究チームは今後、薄膜作製プロセスなどを工夫し、より高性能な材料を開発したいとしている。

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導電性高分子PEDOT:PSS膜による熱電素子。紙の上など柔らかい素材の上に形成できる(提供:産業技術総合研究所)