カイコの卵と眼の色素合成に必要な遺伝子を発見
:農業生物資源研究所

 (独)農業生物資源研究所は5月29日、カイコの卵と眼の紫色の色素合成に必要な遺伝子を、世界で初めて発見したと発表した。
 昆虫の体や眼に見られる紫や赤などの色は、主に「オモクローム系色素」と呼ばれる色素によるもので、野生型カイコでは卵は紫色、眼は黒い色をしている。
 カイコの突然変異体「赤卵」は、卵や眼の色が野生型とは異なって、赤い色をしている。オムクローム系色素の合成に異常がある変異体で、日本で約100年前に発見された。これまでオモクローム系色素を合成する最終段階に、異常があると考えられてきたが 原因遺伝子は分かっていなかった。
 同研究所では、今回「赤卵」の解析から、眼や卵の紫色の色素合成に必要な遺伝子「Bm-re」を発見した。最終的な色素産物の合成に、直接的に関わる遺伝子が明らかになったのは、世界で初めてのことになる。
 研究グループはさらに、オモクローム系色素の合成経路を明らかにし、カイコの「赤卵」変異体の原因遺伝子の解明に取り組んだ
 カイコのゲノム情報を用いて、ポジショナルクローニング法と呼ばれる方法(目的の形質の原因である遺伝子の染色体上の位置を調べる方法)によって、赤卵の形質の原因を調べたところ、Bm-re遺伝子に異常のあることが分かった。
 野生型のカイコの卵で、この遺伝子の機能をRNAiという方法で抑制すると、卵の色が赤卵と同じ色になった。このことから、Bm-re遺伝子が、赤卵の原因遺伝子で、紫色のオモクローム色素の合成に必要であることが明らかになった。
 他の生物を調べた結果、Bm-re遺伝子は、ゲノムが解読されている昆虫のほとんどに存在することが分かった。甲虫の仲間である昆虫コクヌストモドキでも、Bm-re遺伝子を抑制すると眼の色が薄くなったことから、Bm-re遺伝子は、カイコ以外の昆虫でも色素合成に関わっていることが示された。
 現在、遺伝子組換えが起こったカイコの判別には、高価な蛍光顕微鏡が必要とされている。今後、この研究の成果を活用することで、肉眼によって卵の色で判別できる遺伝子組換えマーカーの開発ができると期待されている。
 この研究成果は、5月18日付けの米国科学誌 The Journal of Biological Chemistryに掲載された。

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写真上は野生型カイコの卵。下は赤卵変異体の卵(提供:農業生物資源研究所)