(独)産業技術総合研究所は5月29日、北海道大学、(独)理化学研究所、カナダのクイーンズ大学と協力し、イシカリガマノホタケというキノコが作る不凍タンパク質の分子構造と、不凍機能のメカニズムを解明したと発表した。
キノコの不凍タンパク質は、魚類や野菜などが作る既知の不凍タンパク質とは分子量やアミノ酸配列などが異なり、不凍機能は魚類不凍タンパク質の約5倍と強力。キノコの大量培養による不凍タンパク質の低コスト生産や、高性能の不凍タンパク質としての応用面の開拓などが期待できるという。
イシカリガマノホタケは寒冷地に生息し、積雪下の牧草類や小麦などの植物上で生育する代表的な好冷性生物。研究チームは、このキノコが生産する不凍タンパク質「Tisタンパク質」に着目し、今回、兵庫県にある大型放射光施設(SPring-8)を利用してタンパク質のX線結晶構造解析を行った。
その結果、Tis不凍タンパク質の結晶構造は、これまで知られていた他の不凍タンパク質のそれとは全く異なり、らせん階段のような独特の分子骨格を持ち、タンパク質表面の一部には氷と強く結合できる平面性の高い領域があることが分かった。不凍タンパク質が食品や細胞などを凍結による損傷や破壊から守るのは、不凍タンパク質が微細な氷の結晶の表面に強く吸着して、氷の粒子が成長するのを抑制することによる。加えてTisタンパク質は、魚類の不凍タンパク質が六角柱をした氷結晶の一部の側面にしか吸着しないのに対し、氷結晶の複数の面に吸着する性質を持っていることも判明した。氷表面への吸着に関するこれらの特質により、氷の成長が強く抑制され、強力な不凍機能を発揮すると考えられるという。
研究チームは、今後寒冷地で採取される他のキノコも調べ、不凍タンパク質を用いた冷凍保存技術の進展に寄与したいとしている。
No.2012-22
2012年5月28日~2012年6月3日