人の歯の「親知らず」使い従来の100倍以上の効率でiPS細胞作ることに成功
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は9月27日、人間の歯の「親知らず」由来の間葉系細胞と呼ばれる細胞から従来の皮膚細胞を用いた場合の100倍以上の効率でiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作ることに成功したと発表した。
 iPS細胞は、高い増殖能力と様々な細胞に分化する能力を持っていることから、再生医療への応用が期待される。再生医療とは、病気や怪我などによって、機能が低下または欠損した細胞や組織を、修復・再生させる医療をいう。
 iPS細胞の作製には、主に「OCT3/4」、「SOX2」、「KLF4」、「c-MYC」の4遺伝子を皮膚細胞などに導入するのが一般的であるが、これまでの研究でc-MYCは細胞のガン化を招く可能性があると報告されている。その後、c-MYCを除いた3遺伝子でもiPS細胞の作製は可能と報告されたが、効率が著しく低下するのが課題であった。
 歯は、エナメル質、象牙質、歯髄、歯周組織などで構成され、それらを構成する以前の未熟な組織のことを歯胚と呼ぶ。その歯胚の間葉系細胞には、歯の発生段階なため、骨や軟骨、脂肪、心筋細胞など様々な種類の細胞が混在している。今回、研究グループは、数年間冷凍保存されていた3人の提供者の親知らずからの間葉系細胞を、単一の細胞にまで分解して分離し、個々の細胞を独立に増殖させた歯胚クローン(細胞株)を作り、OCT3/4、SOX2、KLF4の3つの遺伝子を導入してクローンからのiPS細胞の作製を試みた。その結果、従来用いられていた人間の皮膚細胞よりも100倍以上も効率よくiPS細胞が作製できる有用な歯胚クローンがあることを証明した。
 さらに、作製した歯胚クローンについて、iPS細胞の特徴の一つである分化の多能性を検証したところ、皮膚細胞から作製したものと同様に、高い多分化能を持っていることが分かった。
 この研究で、これまで抜歯時に廃棄されていた親しらずの歯胚組織から、ガン化を引き起こす可能性のあるc-MYC遺伝子を使用しなくても、非常に高い効率でiPS細胞を作製できることが明らかになった。このため、親知らずの歯胚組織は、iPS細胞を作製する細胞源として有用であり、再生医療へ広く利用できるものと期待される。
 この研究成果は、9月17日付の米国の「Journal of Biological Chemistry」 誌に掲載された。

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「親知らず」の歯胚を使って作製したiPS細胞の拡大写真(提供:産業技術総合研究所)