(独)農業生物資源研究所と東京工業大学は3月25日、アフリカ中部の半乾燥地帯にのみ生息する昆虫「ネムリユスリカ」が、体内に蓄積した水の代替物質であるトレハロースという糖を利用して、極限環境耐性能力を獲得するメカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。
トレハロースは、食品や化粧品などの保湿剤などとして広く利用されている。近年トレハロースが、生物の細胞やタンパク質を乾燥から効果的に保護する鍵となる物質であるという認識が広がり、基礎科学や工業的見地から注目されるようになった。
ネムリユスリカの幼虫は、乾燥状態の下でほぼ完全に脱水しても死なずに乾燥に耐え、再び水を吸うと蘇生する。これまでの農業生物資源研の研究から、ネムリユスリカの幼虫は乾燥した環境に置かれると失われていく水に代わってトレハロースを体内で大量に合成・蓄積することが分かっていた。しかし、大量のトレハロースを、体内のどこに蓄積しているのか、それがどのような物理的状態になっているのかは明らかでなかった。
今回の共同研究では、ネムリユスリカ幼虫の脱水スピードを変えることにより2通りの乾燥幼虫を作り、その特性を比較検討した。乾燥しても蘇生可能なネムリユスリカ幼虫は、ガラス状態にあり、体内に蓄積された大量のトレハロースが水の代替物質として細胞などを保護する役割をしているとの仮説を立て、物質科学の手法により解析を試みた。その結果、生物(昆虫)の耐乾燥性メカニズムを解明することに世界で初めて成功した。
No.2008-12
2008年3月24日~2008年3月30日