(独)物質・材料研究機構と東京大学は3月25日、共振器なしで高出力の緑色光を連続して発振する緑色レーザーを開発したと発表した。独自に開発した欠陥が少なく熱伝導率の高いタンタル酸リチウム(STL)で作った波長変換デバイスによって実現したもので、共振器なしの従来の世界最高記録を50%も上回る出力16Wの連続緑色光を発生させた。この出力ならレーザーテレビは勿論、レーザーシアターからレーザー加工への応用も期待できる。
次世代テレビの一つと期待されているレーザーテレビなどには、光源の一つとして緑色レーザーが必要だが、緑色を発生する半導体レーザーはないため、赤外線レーザーが発する波長1µm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m)の赤外線を波長変換デバイスで変換して波長0.5µmの緑色を得るのが一般的である。だが、波長変換デバイスの効率が低いので、共振器などによる効率化が必須とされていた。また、材料の損傷や熱の問題から、10W以上の出力は極めて困難で、共振器なしの緑色への波長変換出力の最高記録は2007年に米国スタンフォード大学が出した10.5Wだった。
緑色への波長変換を低コストで実現するには、振動や温度変化に敏感で、調整に経験を要する共振器がない方が良い。また、レーザー出力を制限しているのは、発生熱による温度上昇である。テレビなどに向いた連続発振レーザーで、光を二つの鏡の間で繰り返し往復させる共振器を使わず、一回の光の通過で高効率の波長変換を行なうには、熱伝導率が高く、熱のこもらない材料が要る。今回、研究者は、リチウムとタンタルの比が理想的な1対1に近いSTLを独自に開発した。原子に過不足が無いため欠陥が少なく、熱伝導を担う原子の振動が欠陥で乱されないので熱伝導率が高い。
物材機構の研究者は、このSTLに波長変換に必要な構造を作りこみ、放熱特性を改善、高出力に適した波長変換デバイスを作成した。これを用いて、東京大学が重力波検出器用に開発した出力100WのYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)赤外線レーザーから、安定した16Wの緑色光を得た。研究陣は、少なくとも数Wの出力なら長時間運転にも問題なしと見ており、今後は10W超の領域で信頼性試験などを行い、レーザー加工などの分野への利用を目指す。
No.2008-12
2008年3月24日~2008年3月30日