東京大学と(国)農業環境技術研究所の研究グループは2月3日、東京電力福島第一原子力発電所事故で破壊した原子炉の内部から放出された放射性微粒子の正体を突き止めたと発表した。事故時大気中に飛散した大きさ数μm(マイクロメートル、1μmは100万分の1m)以下の微粒子を地上で採取し、解析したところ、正体はケイ酸塩ガラスであることが明らかになったという。
■セシウムは微粒子の表面付近で高濃度
原子炉内で核分裂反応によって生成した放射性セシウムは、事故当時原子炉内から放出され、大気中にガス化した状態であったと考えられている。しかし、それだけではなく、破壊した原子炉内部から飛散したと考えられる数μm以下の微粒子にも放射性セシウムが含まれていることが最近分かってきた。
そこで研究グループはこれまでほとんど研究されていなかったこの微粒子の実態や、環境中での動態などの解明に取り組んだ。まず、(国)物質・材料研究機構、気象庁気象研究所と共同で微粒子採取法を開発、原子炉から飛散した放射性微粒子を森林などの地上で採取した。
この微粒子を集束イオンビーム加工という手法で切断、薄片化し、高解像度の電子顕微鏡で内部構造などを観察した。その結果、放射性微粒子の正体は車や建物の窓などに使われているケイ酸塩ガラスと同じものであり、二酸化ケイ素のガラス中にセシウムをはじめ、鉄、亜鉛、スズ、カリウム、ルビジウム、塩素などが溶け込んでいることが分かった。
なかでもセシウムは、微粒子の中心よりも表面付近で高濃度になっていた。一つの微粒子ではセシウム、カリウム、ルビジウムなどのアルカリ成分が微粒子の表面付近で少なくなっていることが認められた。これは、放射性微粒子が長く野外環境に存在することでアルカリ成分がガラスから溶出したと考えられ、放射性セシウムの環境中での動態がうかがえるという。
今後、研究グループは放射性微粒子の炉内での成因を関係機関と共同で調べるとともに、環境中での詳しい動態を解明したいとしている。