(国)産業技術総合研究所と大阪大学は2月2日、細胞内のゲノム(全遺伝情報)に生じたDNA(デオキシリボ核酸)配列の異常から細胞のがん化をコンピューターで高精度に検出できるソフトウエア「COSMOS」を開発したと発表した。ゲノムのDNA配列を正常細胞と比較、がん細胞に特有の変化をいち早く見つけられるとして、的確な治療法を早期に選択することが可能になると期待している。
■従来ソフトの70.4%に対し84.5%の検出
ゲノムは生物の細胞内に染色体として折りたたまれているすべてのDNA配列のこと。近年、細胞ががん化すると、この配列に逆転や置き換わりといった異常が頻繁に生じることが分かり、染色体の構造変異として注目されている。一方で超並列シーケンサーと呼ばれる技術の発展で、DNA配列を比較的簡単に読み取れるようになってきた。そこで研究グループは、超並列シーケンサーで読み取ったDNA配列を高速で解析するソフトウエアの開発に取り組んだ。
今回開発したソフトウエアは、ゲノムのDNA配列の構成要素「塩基対」の数が約31億対あるといわれる膨大なヒトゲノム情報をコンピューターで高速に解析できる。超並列シーケンサーを用いて、がん細胞から得たDNA配列を正常細胞と比較して異常が生じているかどうかを解析する。
従来から正常細胞とがん細胞のDNA配列の異常を検出し、その差を比較してがん細胞を発見するソフトはあった。これに対し新技術では、正常細胞からはDNA配列の異常の現れやすさだけを検出、その結果をもとにしてがん細胞の異常を解析する。
この結果、マウスのES細胞(胚性幹細胞)を用いた実験で、がん細胞が10~20%程度と少なくても、従来技術より高精度に異常を検出できるようになった。実験では、実際に異常が生じているかどうかを他の手法で確認したところ、従来のソフトで異常を正しく検出できた割合が70.4%だったのに対し、新しいソフトでは84.5%となり検出精度は14%向上した。
研究グループは今後、検出感度の向上を目指すとともに、人間の患者のDNA配列による検証実験などを進め精度の向上を目指す。