(国)産業技術総合研究所は2月5日、不織布メーカーの日本バイリーン(株)と連携して海水に溶け込んだ低濃度放射性セシウムを迅速に計測するモニタリング技術を開発したと発表した。不織布と効率よく放射性セシウムを取り込む物質を組み合わせることで従来6時間から数日かかった海水の前処理を40分に短縮、より多くの地点でより高頻度に放射性セシウムによる汚染状況のモニタリングできるようにした。
■6時間~数日の前処理が40分で
開発したのは、銅置換体プルシアンブルーと呼ばれる物質を不織布内に固定した不織布カートリッジ。この物質は結晶構造の内部に、海水中に溶け込んだ低濃度の放射性セシウムを効率よく取り込むため、その性質を放射性セシウムの計測に利用する狙いだ。
海水20ℓを毎分0.1ℓの速さでカートリッジに通したところ、海水中の放射性セシウムが97%以上、また毎分0.5ℓの場合には95%以上が回収できた。この結果、現地観測用のモニタリングシステムや海水中を浮遊する懸濁物質を回収するカートリッジと組み合わせれば、海水20ℓに含まれる放射性セシウムの分離・濃縮が40分程度で実現できることが分かった。
また、(国)国立環境研究所との協力で汽水・湾岸域海水中の放射性セシウムのモニタリング試験を実施、1つのカートリッジで92%以上の放射性セシウムが回収できることも確認した。
従来使われている技術では、海水に溶けた放射性セシウムの濃度測定をするのに20~100ℓの海水をくみ上げて懸濁物質を取り除き、さらに放射性セシウムを特殊な方法で沈殿させる必要があった。そのために全体で6時間から数日間に及ぶ前処理が必要とされていた。
産総研は今回の銅置換体の代わりに亜鉛置換体を用いた同様のカートリッジを開発済だが、不純物の多い海水の場合や、淡水でも100ℓ以上の大量連続処理をする場合は放射性セシウムの回収率が低下するという問題点があった。
産総研は今後、新技術を海水中の放射性セシウムモニタリング技術として実用化・標準化を進める。

左は、銅置換体プルシアンブルーによる放射性セシウムの取り込み構造の概念図。右は、開発したカートリッジ(提供:(国)産業技術総合研究所)