(独)産業技術総合研究所は9月13日、ダイヤモンドが持つ優れた特性の一つである電界放出の基本メカニズムを解明したと発表した。低電圧で安定して動作する高性能な電子放出デバイスの研究開発に貢献する成果という。
■化学修飾による電界放出特性を比較調査
電界放出は、電圧の印加により固体表面荷電子が真空中に放出される現象。電子顕微鏡や電子ビーム露光機などの電子線源になる。
ダイヤモンドは、低い電圧で高効率に電界放出するという優れた特性があり、次世代の電子線源デバイス材料の実現を目指して、電界放出特性を安定化させるなどの研究開発が精力的に進められている。
低電圧で安定して動作させるための方策として、ダイヤモンドの表面に水素原子や水酸基などを結合する、いわゆる表面化学修飾がこれまでいろいろ考えられてきたが、化学修飾することにより電界放出特性が下がるといった問題などがあり、電界放出特性を決定するメカニズムの解明が求められていた。
研究チームは、第一原理計算という数値計算手法を用いて電子ダイナミックスのシミュレーションをし、化学修飾されたダイヤモンド表面における電子の電界放出特性を比較調査した。
その結果、従来は「負の電子親和性」とよばれる状態が電界放出の高効率化に効果があると考えられていたが、それだけが必ずしも有効ではなく、表面化学修飾により電子のポテンシャルが表面からの深さに対して単調に変化せず、増減を繰り返す複雑な構造を持っていることが電界放出特性に大きな影響を及ぼすことを突き止めた。
今回のこの理論的解明により、電界放出特性と安定性の向上を目指す実験的研究やデバイス開発に向けた研究の加速が期待されるという。