医療用リニアックの放射線量を正確に把握へ
―がん治療用に標準技術を開発
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は9月12日、がんの放射線治療に使われる医療用リニアックからの放射線の量を正確に決めるための標準技術を開発したと発表した。これまで3%程度あった放射線量の評価の不確かさが2%にまで縮小できた。患部に照射する放射線量は、わずかに異なるだけでがんの治療効果を大きく左右するため、放射線治療の信頼性・安全性の向上に役立つと期待される。11月ごろから医療機関の線量計の校正に役立てる。

 

■信頼性・安全性の向上へ

 

 医療用リニアックは、放射線源として線形加速器で電子を加速したときに出てくる高エネルギー放射線であるエックス線=高エネルギー光子線をがん治療に利用するもので、日本では2009年時点で816台が稼働、年間18万人がその治療を受けている。
 新技術は、医療用リニアックから出てくる高エネルギー光子線のエネルギー量を新たに開発した黒鉛熱量計で測定、そのデータからがん細胞に照射する線量を正確に決めるための水吸収線量に変換する。人間の体は水が主要な構成物質であり、がん治療に使う放射線量の評価では水吸収線量を単位として使う必要があるためだ。
 従来は、この水吸収線量を求めるのに、コバルト60から放出されるガンマ線の水吸収線量を標準にしていた。しかし、高エネルギー光子線はガンマ線とは性質が異なるため、医療用リニアックの線量評価には補正が必要となり、精度を向上させることが難しかった。今回初めて高エネルギー光子線の水吸収線量を直接評価できるようにしたことで、精度を上げることに成功した。
 がんの放射線治療では、たとえば患部に照射した線量が5%少なかっただけで、がんの再発率が約20%増加するとの報告もある。このため医療用リニアックによる放射線治療の信頼性を高めるには、より正確な線量評価が求められていた。

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