「多層グラフェン」用いた微細配線技術を開発
―LSIの電力消費を10分の1~100分の1へ低減目指す
:産業技術総合研究所

 (独)産業技術総合研究所は6月17日、大規模集積回路(LSI)が直面する低消費電力化の壁を超える新しい微細配線技術を開発したと発表した。現在の銅の代わりに炭素原子が平面上に並んだナノカーボン材料「多層グラフェン」で配線を作ることに成功、銅配線を上回る特性が得られることを確認した。特に信頼性の点で優れていることがわかったとして、今後さらに実用性を高めてLSIへの適用を目指す。将来的にはLSIの電力消費を、現在の10分の1から100分の1にまで下げる狙いだ。

 

■確認された高い信頼性

 

 携帯情報端末の普及やIT機器の高機能化に伴って消費電力の増大が懸念されている。このため、電子機器の心臓部であるLSI回路の微細化によって低消費電力化を進めてきたが、それも限界が近いとされていた。
 そこで研究グループは、従来の配線材料である銅の代わりに、炭素原子が平面上で蜂の巣格子状に並んだ薄膜が積み重なったナノカーボン材料「多層グラフェン」を材料とすることに挑戦。このほど化学気相合成(CVD)と呼ばれる方法で10層程度の高品質多層グラフェンを合成、シリコン基板上に通常の半導体プロセスで配線化することに成功した。
 多層グラフェンは、銅よりも電流密度が2桁以上高くても断線が起きないなど高い電流密度耐性を持ち、配線としての信頼性が高いという。一方、電気抵抗が銅よりも大きいことが弱点だったが、今回初めて多層グラフェンの薄膜の間に塩化鉄の分子を挟み込むことで銅と同程度の電気抵抗を実現することに成功、高信頼性と併せて配線材料として優れた特性を発揮できることを確認した。
 今回の成果について、研究ループは「低抵抗・高信頼性多層グラフェンはLSIの配線への適用が期待される」とし、今後はさらに銅以下の低抵抗多層グラフェン配線の実現を目指すことにしている。

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多層グラフェンを配線として利用したLSIの模式図(提供:産業技術総合研究所)