(独)産業技術総合研究所(産総研)は6月21日、沖縄科学技術大学院大学などと共同で農業害虫「コナカイガラムシ」に寄生する細菌が複雑な共生システムを作り、害虫の生命維持に欠かせない代謝を担っていることを発見したと発表した。害虫に寄生する細菌の中に別の細菌が入れ子状に寄生するなどして、従来の常識を超える共生の仕組みを構築していた。生物の細胞や個体などの基本概念に一石を投じる発見として、生物の進化や多様性の謎を探る重要な手がかりになると期待している。
■遺伝子の水平転移も確認
産総研と沖縄大学院大のほか、放送大学や米国モンタナ大学などもこの共同研究に参加した。
コナカイガラムシの仲間ミカンコナカイガラムシの体内にある細菌との共生器官にはベータ(β)共生細菌が、さらにそのβ共生細菌の中にガンマ(γ)共生性細菌が存在する。一方、別のキュウコンコナカイガラムシではβ共生細菌しか存在しないことが知られていた。そこで研究グループは、両者のβ共生細菌のゲノム(全遺伝情報)を比較した。
その結果、キュウコンコナカイガラムシのβ共生細菌は175個のタンパク質の遺伝子を持っていたのに対し、ミカンコナカイガラムシの方は121個だった。研究グループは、ミカンコナカイガラムシの祖先がγ共生細菌を獲得した後、β共生細菌がもともと持っていた遺伝子のうち50個以上を失ったと推定。失われた分をγ共生細菌が補う形で共生システムが進化してきたとみている。
また、カイガラムシの栄養となるアミノ酸の合成経路が、βとγの両共生細菌の遺伝子がモザイク状に組み合わさって構築されていることなど、複雑な共生システムができあがっていることも分かった。また、βやγとは別の細菌に由来する遺伝子がカイガラムシのゲノム上に組み込まれていることも分かり、代謝に必要な多様な遺伝子を様々な細菌から宿主が受け継ぐ遺伝子水平転移が起きていることなども確認した。
研究グループは今後、今回発見された現象が他の生物でも見られるのかを明らかにし、共生進化と遺伝子水平転移の関係などについて追究していきたいとしている。

写真左がミカンコナカイガラムシ、その腹部には共生器官である菌細胞塊(赤色)が存在(中)、右は、個々の菌細胞の細胞質中に不定形のβ共生細菌(青色)が、さらにその内部に入れ子状にγ共生細菌(赤色)が入っている(提供:産業技術総合研究所)