(独)物質材料研究機構と(独)科学技術振興機構は3月28日、無機物の層状結晶が水溶液中でまるで生きた細胞のように数秒で100倍ぐらいに伸び縮みする珍しい現象を発見したと発表した。この研究成果は、最近注目されているグラフェンやナノシートといった2次元物質の理解増進や高収率合成に道を開くことが期待できるという。
■1~2秒でアコーディオン状に拡大
黒鉛(グラファイト)結晶を薄く剥いで単離したグラフェン(炭素原子が六角網目状につながったシート状物質)や、セラミックス材のグラフェン版ともいわれるナノシートは、特異な機能や新しい物理現象を示すことからナノサイエンスのホットな研究対象になっている。
厚さ1nm(ナノメートル、10億分の1m)レベルのこうした2次元シート状物質が比較的弱い力で結びついて積み重なった結晶を層状結晶あるいは層状化合物といい、層と層の間に様々なイオン、分子を取り込む性質が知られている。
アミン類を含む水溶液中ではアミンと同時に大量の水を取り込み、層間隔が数倍に達する膨潤を起こす場合があり、層状結晶からナノシートを得る反応として利用されている。しかし、この反応の詳細はほとんど分かっておらず、これを制御、調節する手段もなかった。
研究チームは、様々なアミン化合物を用いて膨潤反応を調べていたところ、今回、層状チタン酸化物の板状結晶で、これまでにない驚異的な特徴を示す巨大膨潤現象を見出した。
2-ジメチルアミノエタノール水溶液中にこの板状結晶を浸したところ、その厚みが約100倍に達し、1~2秒でイモムシもしくはアコーディオンのように伸びる様子が見られた。また水溶液中に塩酸を加えたところ、巨大膨潤状態は瞬時に変化し、膨潤前の板状結晶に戻った。
この膨潤は大量の水が層間に入り込んだ結果であることが確認され、大量の水の出入りは極めて高速、可逆的であることも判明した。こうした知見は、膨潤度の調節や制御、それによる層状結晶の合成などに役立ち、層状結晶の研究を加速することが期待されるという。