チオフェン超分子シート形成過程の模式図（提供：物質・材料研究機構）
（独）物質・材料研究機構は3月29日、ドイツのマックスプランク研究所と共同で新しい電子材料として注目される有機材料「チオフェン」を厚さ3.5nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m）の薄膜にすることに成功したと発表した。有機太陽電池や有機ELなどに応用できる新しい電子材料が溶液中で簡単に作れるようになり、低コストで省エネルギー性の高い新しい電子素子製造技術の実現につながると期待される。
■太陽電池や有機ELなど幅広い応用へ
チオフェンは1つの硫黄原子と4つの炭素原子が環状につながった有機分子。これが複数つながったものをポリチオフェンと呼び、新しい導電性材料や有機半導体として盛んに研究が進められている。
実験に用いたのは、多数のチオフェンを柔軟な有機物質「エチレングリコール」で互いに結合してひも状にした長さ約80nmの高分子。研究グループがこの高分子を特定の有機溶媒中に入れたところ、自己組織化と呼ばれる現象が働いてひもが自然に折りたたまれる現象を発見。最終的にエチレングリコールの層の間に挟まれる形でチオフェンが1分子層だけ並ぶ薄膜「超分子チオフェンナノシート」になった。ナノシートの大きさは、溶液の濃度を変えることで自由に制御できる。
従来、薄膜化するには真空中で低分子チオフェン化合物を気化させて基板上に付着させる真空蒸着法などが必要で、コストやエネルギー消費、電子材料としての特性などに問題があった。今回の方法で試作した薄膜をX線で解析したところ、真空蒸着によるものと同等のチオフェン配列が低コスト、省エネルギーで得られたという。
今回得られた薄膜は単層だが、何層か積層化することも可能。さらにエチレングリコール層にリチウムイオンなどを溶かし込むことで電導層としたり、薄膜表面にN型半導体分子を導入したりすることも可能で、有機太陽電池や有機ELなどに幅広く応用できる電子材料が実現できそうだ。
