(独)産業技術総合研究所と(独)物質・材料研究機構は12月11日、炭素原子が蜂の巣状に並んだ単原子薄膜「グラフェン」を用いて新しい動作原理のトランジスタを開発したと発表した。電子機器の高機能化に伴いシリコン半導体による従来型の大規模集積回路(LSI)は消費電力の増大が問題になっているが、今回の成果はその壁を打ち破り、超低消費電力型電子機器の実現に道を開くと期待される。
産総研の横山直樹・連携研究体長らと物材機構の塚越一仁・主任研究員らの研究グループが開発した。
グラフェンは、電子の動きやすさ(電子移動度)がシリコンの100倍以上で、トランジスタ化できれば超低消費電力LSIも実現できると期待される。しかし、材料の物理的特性から、従来のトランジスタ構造では電流をオン・オフするスイッチ動作が困難だった。
そこで研究グループは、グラフェン膜の上に1対の電極を、さらにそれらの間にグラフェン薄膜中を流れる電流制御用の2つのゲートを20nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)離して形成した。ゲート間のグラフェンにはヘリウムイオンを照射して結晶欠陥を導入、トランジスタを試作した。
このトランジスタをマイナス73度の極低温下でスイッチ動作をさせたところ、オン動作の時にゲート間を流れる電流とオフ動作の時に流れる電流の比が約4桁に達した。一般にこの比が大きいほど素子の消費電力は小さく、動作速度は速くなるため高性能とされている。また、新トランジスタはゲート電圧のかけ方によってトランジスタの極性をn型かp型かに変えられる。電気的に極性を変えられるトランジスタはこれまでになく、新しい電子素子の実現も期待できそうだ。
今回の技術について、研究グループは「従来のシリコン集積回路の製造技術の中で利用できる」としており、今後はトランジスタ極性を電気的に変えられる相補型金属酸化膜半導体(CMOS)や大面積ウエハーによる素子の製作を目指す。
No.2012-50
2012年12月10日~2012年12月16日