(独)産業技術総合研究所は11月14日、ある種のアブラムシが植物組織に作る虫こぶ(巣)が、アブラムシの放出する大量の液体排泄物を吸収・除去していることを見つけたと発表した。この現象は、アブラムシが自分たちの生存に都合が良いように植物の形態や生理状態を操作、改変していることを示唆する興味深い知見という。 モンゼンイスアブラムシと呼ばれるアブラムシは、イスノキという樹木に中空の虫こぶを形成し、時には2000匹以上が集団生活を営む。虫こぶの形はアブラムシの種によって大きく異なり、モンゼンイスアブラムシのそれは開口部が全くない完全閉鎖型で、アブラムシが飛行飛散し始めるまでの少なくとも2年以上、虫こぶ内での営みは外部環境から隔離される。 アブラムシの排泄物は、糖分を多く含む甘露と呼ばれる液状物質で、アブラムシはこの甘露を大量に排泄する。完全閉鎖型の虫こぶの中で排泄物のこの甘露がどう処理されているのかはこれまで不明だった。 何百匹ものモンゼンイスアブラムシが暮らしている虫こぶを今回調べたところ、死骸、脱皮殻、分泌ワックスなどの老廃物はあったが、甘露が残存蓄積している虫こぶはなかった。そこで、ショ糖水を虫こぶに注入してその消失状態を調査した。 その結果、ショ糖濃度が高くなるに従って吸収効率は落ちたが、モンゼンイスアブラムシの甘露の糖濃度0.5%未満のショ糖は、虫こぶの組織に吸収されていることが判明した。さらに吸収されたショ糖液の行方を調べたところ、維管束を通じた吸収経路が明らかになった。 開放型の虫こぶでは、兵隊幼虫が甘露を開口部から運び出して内部を清掃している。そこで虫こぶ内壁を比較したところ、開放型のそれは厚いワックス層に覆われていて甘露が吸収されないのに対し、閉鎖型の内壁は親水性で、スポンジ状の表層構造であった。 これらの結果から研究チームは、完全閉鎖型の虫こぶをつくるアブラムシは植物の虫こぶ内壁に吸水性を持たせることにより衛生問題を解決し、巣ごもり生活を可能にしたと考えられるとし、今後、昆虫-植物間の相互作用について分子レベル、遺伝子レベルでの解明を進めたいとしている。
詳しくはこちら
|
 |
様々な虫こぶ。(a)モンゼンイスアブラムシの虫こぶ(b)ハクウンボクハナフシアブラムシの虫こぶ(c)エゴノネコアシアブラムシの虫こぶ(d)ササコナフキツノアブラムシの虫こぶ(提供:産業技術総合研究所) |
|