筑波大学は6月8日、炭化ケイ素(SiC)を材料とする次世代パワーデバイス(電力用半導体素子)開発上の懸案であった「負の固定電荷」問題の原因解明に成功したと発表した。高電圧に耐え、熱伝導性が良く、省電力に向いたSiCによるパワーデバイス実現への突破口が開けたとしている。
パワーデバイスは、発電所や電車など大きな電力を扱う装置・機器の電圧変換や直流・交流変換に用いられるデバイス。その中心となるのは電界効果トランジスタ(MOSFET)で、現在その材料はシリコン(Si)が主流。これを、より特性に優れ、極めて高い省エネルギー効率が得られるSiCに置き換えようという研究開発が盛んになっている。
ところが、SiをSiCに変えたうえで絶縁膜の酸化シリコン(SiO2)をウエット酸化という熱酸化法で形成すると、SiCとSiO2の界面に大量の負の固定電荷が生じてMOSFETの特性が損われ、SiCによるパワーデバイス開発を阻む原因になっていた。
研究チームは筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピューター「T2K-Tsukuba」を用い、第一原理計算という計算科学手法により、SiCのウエット酸化過程で何が起こっているのかを調べた。その結果、負の固定電荷の原因が水素原子の影響による炭酸イオンの形成であることが明らかになった。これにより、水素原子の残存量を低減することで負の電荷の起源を抑えられることがつかめたという。
この解明により、今後SiC-MOSFETの技術が飛躍的に向上し、省エネルギー効果の大きいSiCパワーデバイスの普及が期待できるとしている。
No.2012-23
2012年6月4日~2012年6月10日