(独)物質・材料研究機構は6月4日、半導体結晶の超微粒子「量子ドット」を世界最高の面密度で形成する技術を開発したと発表した。化合物半導体のガリウムひ素でできた量子ドットを、これまでの面密度の記録を7倍以上上回る1cm2当たり7300億個形成した。量子ドットを用いた超高性能な光・電子デバイスの開発に道を開く成果としている。
量子ドットは数十nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の寸法の半導体結晶で、半導体レーザーの特性の大幅な向上や、新タイプの高効率太陽電池の開発などが期待されている。半導体バルク材料で作られている現行のシリコン太陽電池の場合、光電変換効率は33.7%が原理的に上限とされているが、量子ドットを用いた太陽電池では変換効率60%以上の実現の可能性もあるとされる。
ただ、一個の半導体量子ドットの体積は非常に小さいため、それぞれの量子ドットが発光あるいは吸収できる光の量は限られることから、量子ドットの高密度化(面密度および体積密度)を図ることが求められている。
研究チームは、1990年に「液滴エピタキシー法」と呼ばれる独自の量子ドット形成手法を開発した。基板結晶との間に格子歪のない量子ドットを自己形成できる唯一の手法として海外からも注目されている技術で、一定温度に加熱した基板上にまずガリウム原子を供給してナノ寸法のガリウムの液滴をつくる。次に、ひ素原子を供給してガリウム液滴と化学反応させてガリウムひ素の量子ドットをつくるというもの。
今回、[1]ガリウムの拡散が起きにくい性質を持つ基板結晶を使う、[2]室温近辺の低い温度でガリウム液滴を形成する、[3]ガリウム原料の供給を最適化する―などの手法を新たに考案、導入し、超高密度量子ドットの作製に成功した。また、熱処理工程を工夫することにより残留する結晶欠陥を修復するなど高品質化も達成した。
この手法を応用すれば極めて高い体積密度を持つ量子ドットの形成も可能で、研究チームは今後レーザーや太陽電池作製に新手法を適用し、デバイス特性の向上を確認したいとしている。
No.2012-23
2012年6月4日~2012年6月10日