酸化鉄の表面スピン特性大幅に改善―高性能磁気センサー材料などに有望
:物質・材料研究機構

 (独)物質・材料研究機構は5月25日、特殊な強磁性材料として知られるハーフメタルの一つである酸化鉄の特性を表面処理によって大幅に改善できる見通しが得られたと発表した。ハーフメタルは高性能磁気センサーなどの開発に不可欠な材料だが、酸化鉄ではこれまで高特性の実現が難しかった。今回の成果により、どこにでもあるありふれた酸化鉄を従来の希少金属に代わる材料として利用する道が開けると期待している。
 ハーフメタルは、材料中にある伝導電子のスピン、つまり磁石としての向きが100%そろった強磁性材料。酸化鉄(Fe3O4)もその一つだが、高性能材料に必要な「トンネル磁気抵抗(TMR)比」と呼ばれる特性が低いのが問題とされていた。
 そこで研究グループは、その原因を探るため、酸化鉄の表面近くにある結晶層の電子スピンを独自の手法で解析した。その結果、強磁性体ではスピンが上向きと下向きの電子の数の違いで決まる「スピン偏極度」と呼ばれる数値が結晶の第一層では内部よりもはるかに低く、それが低いTMR比につながっていることを突き止めた。
 研究グループはその原因について、酸化鉄の表面層では酸素原子が鉄原子に囲まれていないため本来化学結合に使われるべき電子が余り、鉄の伝導電子と相互作用するためにスピン偏極度が低くなっていると推測した。
 そこで表面に水素原子を吸着させたところ、余った電子がなくなりスピン偏極度が大幅に改善した。結晶面によって改善の度合いは異なるが、ほとんどゼロだったスピン偏極度が50%にまで上昇したケースもあった。数値シミュレーションでは100%に近くまで上昇することも分かった。研究グループは、この手法が酸化鉄以外のハーフメタルにも適用できるとみている。

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