(独)物質・材料研究機構と科学技術振興機構(JST)は5月23日、環境に依存して動作特性を変化させる脳型コンピューターに適した素子を開発したと発表した。脳神経細胞間の接続部位であるシナプスと同じように動作する。入力が同じであっても環境によって出力が変わる人間に近い脳型コンピューターの開発に一歩近づく成果という。
神経細胞間の情報伝達を担っているシナプスでは、神経伝達物質の受け渡しが行われており、同じ情報が繰り返し入力されると強い結合がシナプスに形成され、長時間記憶(結合)が持続、入力頻度が低いと一時的に弱い結合が形成され、短時間で忘却(結合が消失)するといった反応が生じている。さらに、このような動作は環境に依存しており、例えば同じ音楽を聴いても快く感じる時もあれば、うるさく感じる時もあるように、同じ入力であっても環境によって出力が変わる。
研究グループは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校との共同研究で昨年、入力の強さに応じて結合強度を変化させる人工シナプス素子を開発したが、今回この技術を発展させ、環境に応じて動作を変える素子の試作に成功した。
開発した人工シナプス素子は、金属イオンを情報伝達物質に見立てたもので、金属イオンを還元して電極間に析出させることで結合状態の強弱を変える仕組み。前回は材料に硫化銀を用いたが、今回は硫化銅を用い、温度や雰囲気などの環境変化に応じた挙動の変化を調べた。
その結果、硫化銅を用いた場合、大気中か真空中かという環境の違いで電極間の結合強度が変化することを見出した。また、シナプス動作の挙動が雰囲気に依存して大きく変化していることが分かったという。これらの成果は、適切な材料を用いれば環境に敏感に反応するシナプス動作を実現できることを示しており、新しい脳型コンピューターの開発への貢献が期待できるとしている。
No.2012-21
2012年5月21日~2012年5月27日